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般若心経

聖なる観自在(音)菩薩様は彼岸で修行を行っているときに悟った。すなわち、形あるもの、眼で見える全ての物と感情による認識である「色」は、実際は実体のない「空」であると。しかし、「色」と「空」は別なものではなく、「色」と思ったのが「空」であり、「空」と思ったのが「色」である。感じる心、考える思い、うつろう心や行動も全ては「色」であり「空」である。

全ての現象は生じたものでもなく、消滅するものでもない。汚れることもないが清浄であるとも言えない。減少することはないが増加することもない。だから「色」や「空」から世界を見ると固定化されたものはなく、感覚や思弁、行為も認識作用もない。眼(見ること)耳(聞くこと)鼻(嗅ぐこと)舌(味わうこと)身(触れること)意(想うこと)色(物)声(音)香(匂い)味(あじ)触(触れるもの)法(思うもの)などは全て存在しない。限界(眼で見える世界)意識界(想うものの世界)明(知識)無明(迷い)はなく、老いることも死ぬこともない。

般若心経

菩薩様がいる彼岸では心に障害がなくなり、障害がないので恐怖もない。その結果、涅槃に至るのである。全ての仏様は彼岸において完璧な覚りを得た方々である。それ故に知らねばならない。すなわち、般若波羅蜜多とは偉大な経であり、比類無二なき経である。この経を唱えることで一切の苦しみは除去されるのである。般若波羅蜜多とは解脱(悟り)の境地に至るには欠くことのできない経である。

彼岸への道を進むため、悟りの智恵に霊験あれ。

以上ご紹介した般若波羅蜜多心経(般若心経)は玄奘三蔵訳の「大般若波羅蜜多経」と法隆寺に残されている「梵文心経」に対して明治17年から続けられてきた改訳を参考に光識寺管長が分かりやすく改訳したものです。

ところで、第2次世界大戦でナチスドイツの原子爆弾開発責任者であったハイゼンベルグは若い頃に「不確定性原理」を発表し、その功績でノーベル物理学賞を受賞しています。その「不確定性原理」は従来信奉されていたニュートン力学がある限られた世界でしか通用しないことを示しました。そしてアメリカに亡命して原子爆弾の製造を進言したアイシュタインの「相対性原理」と共に現代物理学の礎を築きました。 現代物理学の多大な影響をもたらした「不確定性原理」ですが、実は般若心経に通じるものがあります。そのため「不確定性原理」について少し説明したいと思います。

いま、ボーアという物理学者の考えたモデルで水素原子を考えて見ましょう。水素原子の中心には陽子があります。陽子の外には電子が回っていると考えてください。地球の周りを月が回っているようなものです。電子の質量は陽子の1840分の1しかないのですが、非常に遠くを回っています。陽子を1匹の蚤が東京駅の真ん中にいるとすれば、その蚤の質量の1840分の1しかない塵のような電子は東京駅の周辺を回っているのです。どんなに電子が遠くを回っているか理解できると思います。

ところで、その電子の速さをV、その位置をXとすると

h=儼儿

と表せるというのが「不確定性原理」です。儼や儿とは速度や位置が変数となることを意味します。hはプランク定数と呼ばれます。この式の意味するところは、電子の速度を決めようとすると位置が定まらない、逆に位置を決めようとすると速度が定まらないというものです。 この原理は単位を変化させる。

h=僞儺

とも表せますので、エネルギーと時間の関係が不確定であるとも言えます。

そもそも電子の速度を決めるためには、速度を「測定」しなければなりません。測定には例えば電子の移動を超高速度カメラで写し、時間差による移動距離を求める必要があります。しかし、カメラで写すためには電子に光を当てなければなりません。光は光子という超微細な粒子でもあるため、光子が電子に当たることで電子の速度が変化します。すなわち、真の速度は得られません。実際、どのような方法を用いたとしても電子の動きに全く影響を与えないで測定することは不可能です。このことは、電子の位置を測定することにおいても同様です。また、エネルギーを決めようとすると時間が決まらず、時間を決めようとするとエネルギーが決まらないのです。この不確定性原理が登場したことで、ニュートン力学の成立以来存在していたラプラスの悪魔が死にました。ニュートン力学など近代物理学の華々しい成果があった時代のことです。

数学者ラプラス

数学者のラプラスは国王に謁見したとき、このまま物理学が発達すればどんな自然現象も数式で表されるようになり、将来起こることまで予言できるようになると言いました。確かに、当時、木星の軌道の揺らぎから、未知の惑星の存在が予想され、それを計算によって求めて、その予言した位置に海王星を発見したことはニュートン力学の華々しい成果でした。

しかし、まだまだ物理学は完璧ではなく、予言といっても木の葉一枚ですらその落ちる軌道を予測することはできないのです。そのため、ラプラスは科学や数学が十分発達していないため、数式で表すことは未だできないが、自然現象のあらゆるデータや法則があれば将来の現象を予測すること、つまり予言ができると断言したのです。そして、後の科学者は自然現象のあらゆるデータや法則を知っている架空の存在を「ラプラスの悪魔」と名前をつけたのでした。近代物理学者はこのラプラスの悪魔になろうと努力を続けてきたとも言えるのではないでしょうか。 しかし、ハイゼンベルグの不確定性原理の登場によって、ニュートン力学も従来の物理学も「絶対」とは言えなくなりました。

特に、微粒子の世界ではニュートン力学は成立せず、量子力学が誕生しました。また、宇宙論もアイシュタインの相対性原理なしには考えられなくなりました。ニュートン力学はある程度の大きさを持った、私たちの住む世界だけで成り立つ法則であり、しかも、ある確率でしか成り立たない法則だと分かったのです。

現在の水素原子モデルはボーアが唱えたような地球と月のようなモデルではなく月に例えられる電子は波動の雲のような軌道上に、ある確率で「存在する」というものです。 また、アインシュタインが発見した

E=mc2

という有名な式はエネルギーが質量と光速度の2乗の積で表されることを意味します。これによれば物の質量は姿のないエネルギーに変化し、エネルギーも質量に変化できるというものです。それまでは「質量不滅の法則」が信じられており、いかなる化学変化や反応があっても閉じられた系では質量に過不足は生じないと考えられていました。しかし、アインシュタインは質量がエネルギーに変わることを示し、それによって原子爆弾が開発されたのです。 なお、E=mc2は相対性理論の式ではありません。相対性理論は簡単に言えば、観測する場所によって時間や位置、長さが異なって表されることと、質量の影響で空間は曲がり、光はその曲がった空間に沿って進むという内容です。この相対性理論は一般の方にはタイムマシンのアイデアを喚起し、科学者には宇宙の成立を考える上で大変重要な理論となりました。

さて、般若心経の「色」を物質とし、「空」をエネルギーと考えるならばE=mc2で示されている質量とエネルギーの関係にも対応します。また不確定性原理は認識として眼に見えるものや感情が定まるものではないことを示しているともいえます。世界に絶対的なことはなく、全ては「色」であり「空」であると。そのように考えていくと、般若心経に現代物理学の真髄を見るような気がしてなりません。

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